2011年10月23日日曜日

きやらぼく2011/10

◇藤田踏青
時計の長針と短針の間に波が来た
負の整数の黒々と 遺体安置所
小さな運命(さだめ)ランドセルの砂粒一つ一つ
いくたりのたましいのせて花筏
錯乱という文字を消す 凪なれど

◇山崎文榮
秋風籐椅子と週刊誌の真昼の空
風なく二ツ三ツ落ちる銀杏と子供達
高い空の雲の影通りふと蝶が舞い上がる
秋の雲一つ蜻蛉よわよわしく葉にくる
湖面静かに不信の月の激情を沈める

◇中村真理
原稿のふりして恋文書く晩夏
秋暑し黙って流しを磨く妻
月覗く初めて君の洗い髪
虫の音や読まずに捨てるハガキきて
冬瓜を知らぬ北の海育ち

◇阿川花子
立ち直らんとして裾払う一周忌
それよりもまだ昔があると言張る
お下りの派手な色にまぶしい朝の陽
居間までは入らない虫の虫の音
ぽつり滴する音の冴えて明るい兆し

◇幾代良枝
深い空へありがとうに替わる言葉探す
戯れに肩揉んでといえばか細い拳で触れ(病床の夫二句)
立てて二歩三歩脚がうごいていくので
小鳥の夫婦も眠ったらしい明かりを消す
気配に出てみれば月が涙ぐんでいた

◇後谷五十鈴
斑蜘蛛枝に思慮深く栗の毬炎となる
秋は阿修羅のごと地を被う曼珠沙華凄惨
日差し穏やかに老いの確たる意志
過ぎた日は昂揚する抱きしめた感触
茜色に染めた過疎の町を蔓延する精霊

◇三好利幸
夢覚めてさて昼下がり
観音さんの石段の青蛙だった
青空ためらうかひとひらの雲の
冥いボート舫うに君の手触り
悲しみは三度の喉掻き切る

◇斎藤和子
妹との思い出胸に秋の風の中 (妹の死)
夜明けの孤独もて余す今日一日を考える
秋風頬に清けし足の老斑もいとしく
老男老女騒めきそれぞれの歩いてきた道(デイサービスにて)
敗戦は風化させまいと米の花

◇山本弘美
裏返しの心今年も香る黄金の花
作り手の気持ちそのままに人形の顔
法被まとい五割は上がった男ぶり
ねんねんよ これはお月様に聞いたお話
ふと夕方の鼻歌は少し寂しい歌でした

◇谷田越子
心細く松の梢が揺れる秋の真中にいる
飛行機雲穏やかな放物線描き空を染めていく
ふと出て来た頭の隅の小さなメモ
暖簾くぐり抜け私を置き去りにするもの
嫋やかな風に抱かれコスモスときめく

◇前田佐知子
秋を満喫しやわらかい紫蘇の穂をこく
しその実ほつほつ噛めば今日の日和で
地ぞうさまの赤いエプロンの時雨は寂し
しっかり秋の風に包まれて丘のわたくし
イベントの花火高く青空え消えてゆく

◇天野博之
用件はともかく君の声ききたくて
青春の残滓かこの人恋ふるこころは
逃げ場なくして鏡の中へ遁り込む
秋の香りに振り向けばまぼろしの人影
昇るか降るか螺旋階段踊り場に立つ

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