◇中村真理
常滑は路地多き町法師蝉(家族旅行三句)
むきあって舌見せあってかき氷
避暑の宿母より豊かな胸を持ち
河童忌や私も同じ病いもち
新涼や自転車で行く修道女
◇藤田踏青
ほおけたんぽぽ別れの言葉は草書体で
その半音を跳べアマガエル
掌の内のトランプにある逃避癖
大和が行く 黒い黒い意思だ
飛蚊症とかシュールな世界に遊ぶとか
◇山本弘美
気づけば視線が下がっている雨の旋律
全身ずぶ濡れにあの言葉ひとつで
禁句生きてる方が辛いのひとこと
生煮えのハートひとつ箸先で転がす
空から見ている誰かが秋を降らせる
◇後谷五十鈴
暑さ鎭まり産卵する虫たちの饗宴
逢いたくてつれづれに綴る挽歌冥く
地を這う思い寄せてくる定かなき気配
仮初の秋は雨を降らせ思いの丈の瞑想
束の間紫陽花色を失い流れた日々の欠片
◇山崎文榮
昼月の暑さを残し掘割りの桜の木
噴水広場の夕焼けの赤トンボの数
一言足らぬ虚しさをおしろい花の実
トンボの蔭の障子に行ききする雲も流れ
子供の忘れていった絵本の蝶が出ていく
◇斎藤和子
埋めた記憶を此の世の終りとも風の秋
数えきれぬ老斑を心にもつ幾多の宝物
夕風涼しく老いて一人の怨み節か
雨脚白くひかり竹の葉銀の色に揺らぐ
◇三好利幸
ほんの羽虫の羽音ほどの昼だ
悪さの蛙か呀々と鳴き
故に豪雨の地の肌洗えど
柚子の暗緑ゆるりと握る
小石の箱の少年愛でいる
◇谷田越子
雨音幽かに夜の片隅にうずくまるもの
気に入りの傘が鎧う雑音
父の介護は慣れない時間が邪魔をする
隠し続け消えてしまったあの日のしみ
リュックからはみ出た少年の色褪せた夏
◇阿川花子
そして何年も経ち咲きましたピンクのカラー
一夏を惜しみガラス器に盛った集り
今来たこの道帰りゃんせと唄って意中
すかし百合の炎天の色見上げる海の子(回想)
じゃじゃ馬と自らを称し通した女人
◇前田佐知子
耳遠いいと老いてなお美しくしていられる
寺だけで済ませ大型台風の法要の日
台風の目とゆう気味悪い無風にいる
遙か遠山も身の廻りも秋の気配に生きる
台風一過韮の花るんるんと咲く
◇幾代良枝
風に吹かれるままに秋の咲く庭
いつか読むつもりで何と小さな活字
雑然と夏がゆき鳴けない君の長い一日
ゴミ袋の寄り添い話す月あかり
台風は過ぎたらしい蝉が鳴き始めた空
◇天野博之
暦めくると名残の夏をしぼり鳴く声
無いと知りつつこれからを探す男
息をころして月下の一輪咲くを待つ
月に誘われ鳴いて燃え立つ虫の声
冥界の風流れ来て母はサギ草の花揺らす
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