◇山崎文榮
陽だまりに咲く石蕗の花
煌めく夕日に従弟の骨壺かさこそ鳴り
従弟の面影と記憶の水色の悲しみ
静かに雪が舞いとむらいの大空
春の雨終電車が街の灯きらめき
◇藤田踏青
夜を逆さに吊しプラシーボ
熱燗の中で叫ぶ「神は死せり」
面を忘れ線に酔う春時雨
水墨画のように失せ物 峠茶屋
軽石は唯物論的に愛される
◇三好利幸
少年真一文字見えぬ塵降る
滾る大気に腕携え往くを待つ
雪は頻りに何処かに弔いあり
静かに指触れ障子の桟は哀し
父は鈑折り傍らの玩具の包丁
◇谷田越子
光の雫に変わっていく白い孤独の最終章(フィナーレ)
春に止まる小鳥の電線よりも細い足
君が笑っていた真夜中の一瞬に付箋貼る
うすい西陽の向こうに霞む春山の稜線
家々の灯り近付き車窓へ手を振る
◇後谷五十鈴
おぼつかなく傾斜する春の段差踏む
山は雪に霞み出口のない迷路さ迷う
病めば声もくぐもり振る雪の幻覚
視界はドクターヘリ雲間抜ける銀の翼
降る雪冥くもう逢えないその面影
◇阿川花子
鳴り狂う冬の雷さん薄笑いしてますね
無造作の言葉が好きな果ての佇ずまい
素足で狭く暗い廊下のその先の灯
心の迂回路へ迷いすとんと落ちた日
表に向きを変える事に気付き軽くなった齢
◇前田佐知子
すっかり春になったよ金盞花が踊っている
大雪に埋もれてきた白菜のこの甘さ
八十路の年を迎えて水仙の白い真実
待ってました春一番の今日はうれし
真の友を失なったぽっかり無情の風
◇山本弘美
器の上笑いさざめく一週間めの薔薇
豆雛立ち雛流し雛にぎやかに女たち
荒れた掌に水が沁みふと母の感触
夜明けが早くなり今日も太陽を磨こう
雪がとけ不細工な毎日が戻ってくる
◇広瀬千里
東天の輝き生まれたての朝をどうぞ
枝折れて一夜の雪のなんとまあ
空気しいんと整列明朝は雪ですきっと
台所の音女の遺伝子いそいそと
ぱんとこうひい気取った朝でせめてもの
◇天野博之
早春のあわい伝言か散り落ちた白い花びら
額からどす黒い筋を得体の知れぬ女の怒り
瞳の中に津波が迫り眼球脳裡を逃げまわる
一瞥し刻呑み吐いた午後二時四十六分
降る雪に募る思いはあの日の君のカーディガン
◇増井保夫
アルミ缶売って軽い冬の雪
この雪深く明日もこもる
この男きわみ深く明日大雪
太い枝ぶりさがせと奴がいう冬の空
病い物言えぬ男の哲学
◇岡崎守弘
何もしない何もしなくてもよい日が暮れる
かたくなに老いを認めたくない私に雪
いつの間にか春が来て独り言つぶやく
◇幾代良枝
ふと覚め真夜中の雪の精の祝宴を見た
生来無口な男とて病んで声を無くし
歯の無い顔で笑い頼られている
駐車場に咲いた薔薇色の新車と春の雲
時代錯誤の嵐に早春のシュプレヒコール
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