2012年5月27日日曜日

きやらぼく2012/05


◇山崎文榮
地の断層の傷みさくら燃えさかり
さくらのまにまに蝶が被災地をとぶ
解体された学校の静かな海がみえる
被災のストレスを光を失った二人の顔
青菜の一本の傘に男と女が孵化する

◇山本弘美
ひとりだから零れるほどの花を活け
媚薬ひとつまみ今宵の月
魅せられて綺麗な赤が苺をならべる
殺さず外に放した蜘蛛と嘘の匂い
女とはつまらないもの爪を切る

◇藤田踏青
不敵な旅人たらんと汚れて野鴨
ものはみな一桁と思う微熱の朝
レースの揺れは微熱への返信か
常識の裏側でほどかれていた紐
大脳皮質いっぱいの潮の香だ

◇前田佐知子
ひんやり目薬いれ春夜のいちにち
長い身の上話し新ニラ柔らかくとじる
バイのケツ何とも旨く古の海をしたしむ
五月墓所明るく晴れあがり佛事終えた
人毎に慈雨を讃えて五月をいただく

◇阿川花子
両手で受けた木の実の手応えなき夢
四月馬鹿そんな日あったのも忘れていた
紅付けず白粉浮かせ招かれてゆく
一瞬の思いに息詰め忘れるのも一瞬
間違えた球根の花として幾年も咲く

◇後谷五十鈴
今生のひかり放ち牡丹崩れる
幽かな記憶を牡丹はその色に咲く
こころ風に散って流れの速さへ消える
川幅いっぱいの春を流れる花びら
春の日あっけらかんと惚けている

◇谷田越子
風を束ね花みずきの優しい楽譜
ポーカーフェイス捲って般若の顔
踊りながら止まる白いリボンが選ぶ花
指にこぼれる青い野草の葉露の仕草
さよならさくら最後の刺繍ほどく

◇三好利幸
底無し空へ少年そっと反り
漫然と風を聞くあの日がその日
みぞれつめたしちいさきいのり
チーズ齧り独り厨の昼に
火打石うて引き返せぬ道

◇広瀬千里
とり訳けの平凡によりそう胸に金の母賞 そっと
歳月が鍛えし饒舌になったあの日の蝶
遠くたおやかな夕日今日はいい日だ実に
はっとして 自分であって自分でない自分に
カーラジオ曲を流して時をつめこむ

◇天野博之
寒い春の大三楽章はフルートではじまる
萎えたこころに季節遅れの青嵐がきざす
愚痴は奥歯で噛み天に召された真実の女
バロックの芳気がのぼるこの深い喉ごし
暖気におおわれ意固地な魂急にほころぶ

◇増井保夫
深夜の電話セントヘレナから
憂いの中に喜びの声俺唸っとる
保険無し我が人生濁流
いくじのなさと気の弱さで今日も生きてみる
生命線長く憂いの通夜が始まる

◇幾代良枝
冗談のごと君はかなしみの仕草する
話せない男に焦れてみたり夕餉を黙し
思わず声荒げるも君は答える術もたず
手押し車で歩ける男の背の晴れている
雛を温め何かしら話すカナリヤの番い


招待席

◇井上敬雄
春をひろげて傘をほす
目をつむっているほほに春風
一番星へ届いている春のまつりだいこ
さくらさいてみんなしあわせになろうよ
石段の前にうしろにちってくるさくら

◇おがわひであき
着陸と離陸 同時に繰り返す滑走路
刺の突き刺さった薄い月融けてゆく
ミイラになった蝶乱舞するたそがれ
寝た子を起こして愉しむ春の芽吹き
弾痕の軌跡を確かめる 肛門のあたりか

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