2012年7月29日日曜日

きやらぼく2012/07


◇山本弘美
ひと粒の幸せ紫陽花が上手く活けられて
百合の花粉の色が落ちない驟雨の午後
ひと夜だけとこいねがい夜伽の蛍
硝子なら粉々になれるのに黙りこむ
雨が近い無駄に生きてた訳じゃない

◇藤田踏青
自画像がジョーカーとなる溲瓶
通行料払い自画像手に入れる
輪ゴムで一くくりの自画像か
経帷子(きょうかたびら)着せられている自画像
自画像が淡く残った伝言板

◇山崎文榮
過疎のふるさとの青さこえてきた蝶
うからやから集い面影皆老い達者な
ながい河でした静かに渡る仏を弔う
幾山河のふるさとの果物褒められ
長雨の雨の音を山梔子の花

◇幾代良枝
シーソーゲームの果て着地した空の思考
男と女の濃密な別れは白い梔子の花
ちいさな手鏡に映った一片の夏雲
雑貨屋から流れるシャンソンに囚われる
季節は移ろい長く鏡を観なかったような

◇谷田越子
季節に追いつけないこころの細い歩幅
川面に繰り広げた小さな会話が点滅する
夏に似た夏ではない風の焦燥
思い出が雨を連れてくる一瞬を振り向く
新聞からポロポロこぼれた言葉

◇後谷五十鈴
命永らえ戦火の炎忘れぬ薄明かりする
梅雨空を何故蜂の明晰な巣のかたち
夜の稲妻激しく屈折する思惟
明白なるラベンダー色の風に吹かれる
初夏のひと夜宇宙と遭遇した星の色

◇前田佐知子
伊勢大神楽の御札とゆう信じるか己れの深さ
あの世え行った友初夏を一言伝えたい
ようやく生えてきた緑の雨を受けている
今日を占ってみる厨の梅雨空
八十才のエネルギーをもらう私の厨

◇三好利幸
なみだとどめどめぶくだいち
愛憎あやしくたっぷりの菜の花
ひねもすひなげししらすなに消え
菖蒲かおるも胸騒ぐ風の厨
カラシニコフ負うや夜明けに眠る

◇斎藤和子
命あれば考える句が動き出す
楽しい付合いもあって夕焼け
ぶどう一粒つまんで一人の私でいる
白い骨はふる里へ隠岐の天気予報
ふる里は青い海に囲まれテレビの天気予報

◇天野博之
硝子のハンカチひろげ涙をつつむ
耳元でそっとお月さま尻尾が出てます
こころの斑点おとす薬をスポイトで吸う
マツダランプの看板と番傘が歩く町の色
見る人もなく咲き月下美人の迎えた朝

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