◇幾代良枝
夏の夕映え妖しく翼を広げた女の心模様
昇りきれば風と安らぎの椅子一つ
ホースが描いた虹に委ねる今日の拘り
暑さ極まりすべての怒り脱原発に起つ
傲慢な理屈を命より大切な物在るが如く
◇天野博之
友が死に闇空の遠いさざなみ
夕立ちの隙間に見えた魔界の入り口
子供は嫌いだからとさりげなく独り身の女
緊張の糸切れ燃え糟となった真夏の夜
それからを考えるのは死んでから
◇谷田越子
手のひらかざすと夕陽が降りてくる
誰を探している表紙絵の視線
空に疲れ風の懐に忍び込んだ一片の雲
私を置いていく星の靴音があんなに
夜行列車に想い出が飛び乗る
◇藤田踏青
神の領域かすめツバメ一閃(いっせん)
翌朝までホロ苦い独酒(ドストエフスキー)
続編は河原のすすきで書きます
順不同 狐と狸が通ります
山の神海の神から除名されてもニンゲン
◇山崎文榮
月が明るく花時計ときを刻むと揺れる
雷と来た雨と地蔵さまとポスト
雨がこやみに水たまりの子供と長靴
ある草の穂と天道虫のつるんでいる午後
雨が灯に旅愁めきポプラの葉の色
◇山本弘美
わたしの中で何かが叫ぶ黎明の海
水の記憶はるか好きな色さえ
いいかげんにしろ荒ぶ夏に喧嘩売る
叩き潰すほどの雨のなか人柱になるか
愛国心か判官びいきか五輪の夏
◇斎藤和子
感動うすらぐ胸にも今年の花咲く
ともかく薬飲んでいるこの安心感
老いを頑張ってデイサービスでの私
この頃体調もよく朝晩のヘルパーさん
チャンネル選んでは食い付いている
◇後谷五十鈴
熱い夜の月虚像となるドアを叩く
夏草猛々しく思考の果ての蝉鳴く
暑さ極まり丘の土偶に風が渡たる
見果てぬ夢追い蜻蛉の涼しい行跡
枇杷の実熟し脳裏よぎる戦禍の疵
◇三好利幸
やくざ病み漬物切る闇
心荒ぶるは孤独峰仰ぎて
縊る老鶏獣めき少年駆け抜け
君に溢れる澱の腕まわし抑えつ
ちからなくひれふしひとりのあかり
◇前田佐知子
この酷暑にどうしてもついてこない体
少年暑さに向い目が生きてゆく
立秋とゆう朝の夾竹桃の花のいろ
連日の低空飛行が酷暑を騒がす
窓の微かな風に立秋をさがしている
◇阿川花子
朝霧と遠のく足音が異国の街を忘れえぬ歌劇
酒場で昔テキーラを四年先は観られまい
落ちた音は又櫛か老女病室で髪を束ねる
夜に雲を追うさすらう如きと病臥に思う
地と霧のはざまを猫が悠々とくぐる
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